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家の中の危険を、数字と体験で知る:安全持続性能の会 全国大会(前編)

家の中の危険を、数字と体験で知る:安全持続性能の会 全国大会(前編)

はじめに

2026年10月1日、埼玉県の大宮で開かれた「第5回 安全持続性能の会 全国大会」に参加してきました。

参加者は130名。建築の人間と、医療の人間が同じ場所に集まる会です。僕の知る限り、他にこういう会はありません。家のつくり手と、人の身体や暮らしを見ている人が同じ話題で向き合うので、毎回、頭の使う場所が変わります。新しい学びが多い場です。

安全持続性能は、省エネ性能・耐震性能とともに、設計のときにあたりまえに考えられるべき「第3の性能」です。

住宅の中での転倒や転落などの事故を予防する「安全性」と、身体やライフスタイル、家族構成が変わっても住み続けられる「持続性」。この二つから成る基準です。

ウチは、5年ほど前からこの会に入っています。3年前の新潟(第2回)では、オンラインで顔を合わせていた方々と、はじめてリアルでお会いしました。昨年は岐阜の総会で、副会長を拝命しました。そして今年が、大宮です。

長くなるので、前編と後編に分けて書きます。前編は、つくり手の側の話です。基調講演と、谷田貝さん、大出さんの講演を書きます。後編で、医療の側の話と、会の空気について書きます。

北海道の仲間に、道外で会う

会場で嬉しかったのは、北海道の仲間に会えたことです。

BAQOOL(カイトー商会)の米本さんと、ホーム創建の片岡くん。同じ北海道なのに、会うのはいつも道外です(笑)。

北海道から離れた大宮で、北海道の言葉で話せるのは、不思議と安心しますね。

久しぶりに顔を合わせた方々とも、いろいろな話ができました。初めてお会いした方も何人かいます。イエづくりの話に限らず、会社のこと、これからのことまで、立ち話が長くなりました。

基調講演:安全持続性能による住み続けられる家づくり

基調講演は、安全持続性能の提唱者、HAPROTの満元さん(ヨシローさん)です。作業療法士出身の方が立ち上げた会社で、2022年の設立。2026年9月30日に5期目が終わり、大会当日の10月1日から6期目に入ったとの事。

数字を見て、考え込みました

講演の中で、一番ずしんときたのが次の数字です。

家の中で亡くなる人の数が、交通事故とほぼ同じなんです。交通事故には、みんなが気をつけます。信号も、シートベルトも、ルールがあります。では家の中はどうか。僕たちつくり手は、同じ重さで向き合ってきたのか。そう問われた気がしました。

ほかにも、住宅内での死亡原因は溺水が最も多く、次いで転倒・転落との事。100歳以上の人口が初めて10万人を超えたという話もありました。2014年の約2倍です。長く生きる時代に、家が長く暮らせる場所であるかどうか。ここは、つくり手の責任が大きいところです。

安全持続性能とは

安全持続性能は、安全性5項目と持続性8項目、合わせて13項目を数字で測れる形にした独自の基準です。基準書は無料で配布されます。

国土交通省の次世代住宅プロジェクトにも、昨年公募で採択されています。2028年まで実証が続く予定です。導入は全国で250棟以上に広がっているとの事。

具体例も、現場で使えるものでした。

どれも特別な技術ではありません。ただ、「35歳で建てた家に、70歳で住む自分」を想像して設計しているかどうか。そこが分かれ目になります。35年ローンを払い終える頃には、住む人は70歳です。国土交通省の調査で、高齢者への配慮は住まいの不満の第1位が4回続いているとの事。

子どもの転落事故のこと

子どもの転落事故の話もありました。東京都の新宿区や北区でも起きた事故です。目を離したときに、子どもがベランダに出られない状態になっているか。引き渡しのとき、その設計や仕様の意図をお客さんにきちんと伝えているか。

つくって終わりではなく、伝えるところまでが仕事だという話でした。これは耳が痛いです。

一番響いたメッセージ

困ったことが起きてから関わるのでは遅い。起きる前から、作業療法士のような暮らしと身体の専門家が住宅に関わる。転倒、転落、溺水、ヒートショックといった日常の災害を、防災と同じように、当たり前に予防する。

建築と医療が同じ会場にいる意味が、この話で腑に落ちました。

谷田貝進さんの講演:「安全持続性能」と高性能住宅

次は、有限会社家づくり舎ファミリー代表の谷田貝進さんの講演です。埼玉県越谷市で、設計事務所と工務店を2人で営んでいます。UA値0.1〜0.2の高性能住宅を手がけている方で、2026年9月10日にはネオマアカデミーにも登壇されています。

この講演は、谷田貝さんご自身の体験が軸でした。

50歳で、「おじいちゃん状態」になった

2年前、50歳のとき、胸にしこりができたとの事。前触れはありませんでした。調べると、胸の中に7センチ台の腫瘍が見つかり、悪性リンパ腫と分かりました。抗がん剤の治療と入院が、約5か月続きます。集中的な治療を終えた今は、再発のない状態で、定期的に経過を見ているとの事。

話を聞いて驚いたのは、生活に一番響いたのが、病気そのものより治療の影響だったことです。手足の先の神経が麻痺して、筋力が落ちました。親指が動かないので、ペットボトルが開けられない。鍵が回せない。運転もできず、退院してから約2か月は、会社まで送り迎えしてもらったとの事。

谷田貝さんはご自身を「おじいちゃん状態」と話していました。高齢期を、50歳で先に体験したことになります。

自分の家が、自分に厳しかった

当時の自宅は、次世代省エネ基準にも届かない寒い家でした。免疫力と筋力が落ちた身体には、その寒さがこたえたとの事。

玄関の21cmの段差。階段。「膝が砕ける恐怖」という言葉が出ました。高性能住宅をつくっている設計者でも、自分の家では、手すりの連続性、握りやすさ、緩やかな階段、本当に効く滑り止めの大切さを、身体で知ることになったわけです。

「未来のため」ではなく、「目の前のこと」

谷田貝さんが強く伝えていたのは、生活は誰でも、年齢に関係なく、ある日突然変わるということです。だから安全持続性能は「将来のため」ではなく、「目の前のこと」として考えてほしい、と。

そのうえで、「やりましょう」と押し付けないことも大事にしていました。価値を学んで、理由に納得して、住む人と一緒に想像して、必要なものを選ぶ。断熱の基準を考えるときと同じ姿勢です。取捨選択するところまでが専門家の仕事、という考え方です。

29社回って、28社目に選ばれた

住んで3年目のお客さんから届いたメールの紹介もありました。29社を回って、谷田貝さんの会社は28社目だったとの事。そのお客さんの言葉は、好きな建築を提供する会社ではなく、暮らしに対して専門家として最善の判断をしてくれる会社、という評価でした。工務店として誇りに思う、と話していました。

最後は、同じ志の工務店が発信力を高めて、強い声にしていこう、という呼びかけでした。小さな会社が一社ずつ声を出しても届きにくい。でも、同じことを言う会社が増えれば、社会に届く。僕もこの記事を書いているのは、この呼びかけに応えたいからです。

大出達弘さんの講演:高断熱・実測・オフグリッドで考える「住まい手を守る家」

三つ目は、設計事務所、株式会社カメプランの大出達弘さんです。自宅兼モデルハウスで、オフグリッドの実証実験をされています。

僕の持ちかえるテーマは「実測と分析」です。

自宅で試して、1年間測った結果

大出さんは、2023年に自宅兼モデルハウス兼事務所を建てています。敷地は30坪で、建物は25坪弱のコンパクトな家です。

驚いたのは、ここに使われている設備が、特別なものではないということです。市販の汎用品を組み合わせています。大出さんも、既存の建築の延長線上の取り組みだと強調していました。

そして、2024年の実測の結果です。

事前のシミュレーションでは95.1%と予測していて、実測とほぼ一致したとの事。5月と9月は、暖房がいらないので自給率100%でした。

冬の暖房は、太陽光で発電している8時から15時だけです。夜間や就寝中は暖房をつけません。それでも、2025年2月10日には、外気温が翌朝6時に0.7度まで下がる中、室温は19.5〜24度に保たれました。就寝中にエアコンなしで、喉もカラカラにならなかったとの事。大出さんは、これを「UA値0.24の実力」と話していました。

夏は、2025年8月5日、外気温が40度近くまで上がった日でも、室温は26.9〜29.3度でした。

夏の冷房は、冬のように「発電している時間だけ」とはしていません。発電に合わせるだけでは湿度を抑えきれないので、朝6時から就寝前まで運転する方針との事。数字を測っているから、こういう判断ができるのだと思います。

「起きたらダメ」ではなく、「もう起きている」

設計の考え方も、心に残りました。

災害や事故が起きたら頑張る、という考え方ではなく、もう起きている前提で設計する。大出さんは、無断熱の借家に住んでいたとき、冬の室温が7〜10度まで下がり、奥さんが体調を崩した経験から、今の家を建てる決心をしたとの事。

真冬の朝の寒さも、真夏の停電も、熊本地震や千葉の豪雨災害を思えば、「いつか起きるかもしれないこと」ではなく、今も起きていることです。だから、設備に頼って室温を保つのではなく、建物そのものの断熱で、まず基礎体温を上げる。そのうえで太陽光、蓄電池と進める。優先順位は次の通りでした。

  1. 必要な量を減らす(断熱)
  2. 太陽光でつくる
  3. 蓄電して貯める

さらに、UA値を上げるために窓を絞るだけの流行に、警鐘も鳴らしていました。春や秋には、風を通して外とやり取りできる窓が必要です。UA値は予測の数字にすぎません。

温熱にも、段差がある

大出さんの言葉で、一番ひっかかったのがこれです。

物理的な段差をなくすバリアフリーは、僕たちもよく考えます。でも、温度の差も段差だ、という話でした。無断熱の家で室温が極端に下がると、免疫力が落ちたり、ヒートショックが起きたりします。谷田貝さんの21cmの段差の話と、重なって聞こえました。

体感温度は(室温+表面温度)÷2です。室温が高くても、壁や床の表面温度が低いと身体は「バグる」。エアコンで室温だけ上げても、表面温度がついてこなければ、快適にも健康にもなりきれません。UA値の数字だけを追うと、ここを見落とします。

お客さんが欲しいのは、UA値ではない

一番ハッとしたのは、この言葉の趣旨です。お客さんが本当に欲しいのは、断熱性能という数字ではなく、「暖かくて涼しい家」だということ。

だから、設計でシミュレーションし、建てて、実測してレビューし、また設計に戻る。このサイクルを回すことを基本にしている、と大出さんは話していました。安全の流れは、「守る、確かめる、伝える、暮らし続ける」の4段階です。

測るのは、思ったより簡単だった

実測と聞くと、難しそうに感じます。でも、今はそうでもないという話でした。

床下を測る理由も納得でした。1階にいる人のすぐ下の環境だからです。床断熱でも基礎断熱でも、測る価値があります。

そして、運用のアイデアが面白かったです。竣工祝いとして、お客さんに計測機器を贈る。その代わりに、1年間の計測を許可してもらう。

計測器は、住まい手とつくり手をつなぐ共通言語になります。昔は、クレーム対応のために測っていたものが、今はお客さんと長くつながり続けるための財産になる、という位置づけでした。

変化を見据えて、4つで備える

大出さんは、住み続ける家が向き合う変化を、4つに分けていました。

35年以上の暮らしの中で、加齢も、家族の人数も、気候も、災害時のインフラも変わります。順番は、先に断熱で必要なエネルギーを減らして、そのあとでオフグリッドに進みます。蓄電池も、非常用として置いておくだけでなく、平時から系統に頼らない運用で試して、使い方まで住まい手に伝えるのが大事との事。

階段の実験も、印象に残りました。階高2,393mmで、蹴上げ200mm未満、踏み面250mm以上のまま、10段で上る階段です。平面と断面を一緒に考えないと成り立たないので、設計の難易度は高く、一般のお客さんに標準で使うには、まだハードルが残るとの事。

前編のおわりに

ここまでは、つくり手の側の話でした。

家の中の事故死は、交通事故とほぼ同じ数だという現実。谷田貝さんが、ご自身の身体で知った家の弱さ。大出さんが、1年間の実測で示した、性能の確かめ方。三つの講演は、つくり手が「つくって終わり」にしないことを、それぞれの角度から話していました。

谷田貝さんは最後に、同じ志の工務店が発信力を高めて、強い声にしていこう、と呼びかけていました。

昨年の総会で副会長を拝命したとき、僕が考えた役割は、「地方の小さな工務店から広める」ことと、「色々な声を吸い上げて、より広げる」ことでした。この呼びかけは、その役割に重なって聞こえました。

後編は、四人目の松井先生による、骨折の専門医から見た住まいの話からです。審査員セッションで聞いた「数字と物語で伝える」話と、この会ならではの空気、そしてウチで取り組むことも書きます。

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